春の嵐
■ 春の嵐
春の嵐
春なんか大嫌いだ。
風は強いし、生ぬるいし、
新入生も新社会人も通勤電車じゃ立ち位置もぎこちなくて、
静かにしてほしい朝に友達と乗り合わせてぺちゃくちゃおしゃべりうるさくて、
ラッシュが余計ラッシュになって変に汗かくばっかりで。
フレッシュだか何だか知らないけど、私には新しいことなんか何一つもない。
毎日が同じことのくり返しなんだから。
私は電車からため息と一緒に吐き出されながら、怒涛の人の波と一緒にオフィスへと急いだ。
きゃっ
交差点を曲がったとたん、春の嵐が容赦なく吹きつけ、髪をめちゃくちゃにかき乱していく。
ああもう!だから春は…
「最低だね」
と私が言おうとしていたセリフを突然横でつぶやく人がいて、驚いてふりむいた。
「風、強すぎ」
と言って爽やかなはずの髪を同じように乱しながら、だけれど直すわけでもなく、くしゃくしゃのまま彼が私に微笑んだ。
「僕のこと覚えてくれてる?」
「同期だもん、覚えてるに決まってるじゃない」
忘れるわけがない。
「ちょっと太った?」
「し、失礼ね!」
久しぶりの再会に動揺している私にかまわず、彼はくしゃくしゃの笑顔を私に近づけた。
「異動で今日からこっち、本社勤務になったんだ。よろしくね」
え?
じゃまた、と彼は私をさっぱりと追い越し歩いていく。
ちょっと待ってよ・・・
よりによって髪がこんなくしゃくしゃなときに再会するなんて。
朝の陽射しがまぶしくて、思わず目を細めてしまう。
彼の背中はあっという間に人の波に消えてしまう。
木々は綺麗なうすい黄緑色の新緑を歌うように大きく揺らしている。
そして強い風は相変わらず私の髪を、服を、何もかもを大きくかき乱していく。
「ちょっと待ってよ」
なにひとりでしゃべるだけしゃべって行っちゃうのよ。
ああもう・・・
私は思わず小走りになる。
だって。
春の嵐が私の背中を押すんだもの。