たからもの
■ たからもの
たからもの
ああ、妹がまた泣き出した。
「なんでおもちゃを取り上げちゃうの!」
そう言って母さんはボクの手から妹のおもちゃを取り上げた。
「だって」
「だってじゃありません!」
ボクは悔し涙をこらえて自分の部屋へとかけこんだ。
バタンッ。
わざと大きな音を立ててドアを閉めてやった。
だってさ、お人形についてるリボンを口に入れてひっぱるから、飲みこんじゃうかと思ったんだ。だからあわてて取り上げたんだよ。
心配したんだよ。
でもね、母さんは一度怒りだしたらボクの言うことなんか聞いてくれやしない。
いつだって母さんは自分が思ったことがいちばん正しいと思ってる。
ボクが妹のおもちゃを取り上げたのは、ボクが妹に嫉妬してるから。そう思ってるんだ。
生まれたばかりの妹はそれはそれは小さくて、お人形みたいで、とってもかわいい。
でもそう思うのはニコニコ笑ってるご機嫌なときだけ。
ぐずって泣き出すと何をしたって泣きやまなくてさ。
ボクが笑わせようがおもちゃを見せようが、ますますカンシャクをおこすだけなんだ。
母さんしか妹を泣き止ませることができないんだよ。
妹はまだまだ泣きつづけてる。
母さんは朝から晩までいつだって妹につきっきり。
わかってるさ。
「あなたはお兄ちゃんなんだから」って言いたいんだろう?
寂しくなんかない。
ボクは自分の服が入ってる引き出しの中をごそごそとかきわけた。
伸ばした手が奥のほうで硬くてひんやりした感触を見つける。
ボクはすかさず手繰り寄せる。
目の前に現れたそれは、ボクが見つけてくれるのを待ってましたとばかりにキラッと光る。
ボクの父さんは自転車に乗るのが大好きでね、「これはママチャリとはぜんぜん違うんだよ」ていうのが口癖だった。
これは父さんが修理したときに取り替えた自転車のパーツさ。
「パーツのどれが欠けても自転車はちゃんと走ってくれないんだ。とくにこの部品は重要な場所を担当してるんだよ」
そう言って父さんはこの部品の役割をとても熱心に説明してくれたんだけど、残念ながらボクは父さんの言っている半分もわからなかった。
でもね、なんだかとってもうれしかったんだ。
「これくれる?」
「ああ、もちろんだとも」
どこのパーツかもわからないけれど、
フクザツな形をしてて、手の中でずしんと重くて。
これを見るたび、ボクは父さんからとっても大切なことを任された気持ちになるんだ。
母さんに見せたってぜったいわかってもらえないものだけど。
母さんも妹も知らない世界をボクは持っている。
ボクだけの物語。
今度はね、ボクが妹に宝物をつくってあげる番なんだよ。