ますだ美砂の優しい時間~short shrot story~ vol.1

ますだ美砂の優しい時間~short shrot story~ vol.1

日常がハッピーに変わる瞬間。きっかけ作りは桜の魔法!?
…そんな、小さな小さなものがたり。


花びらの絨毯

花びらの絨毯

花びらの絨毯

おだやかな陽射しが、つぎつぎ舞い落ちる花びらをきらきらと光らせていた。

商店街から一本裏にある、小さな川べりのお散歩コースは普段は人影もないけれど、桜の季節だけは街の主役とばかりに華やいでいる。子供もお年寄りもサラリーマンも、まるでみんな昔からの顔見知りのように微笑みながら桜並木の下を通り過ぎていく。

私はすぐ目の前を歩いている彼と、きっちり距離を保ったまま歩いていた。
お惣菜やらお肉やらが入ったスーパーの袋が、私たちの手元で一つずつ、カサカサと音を立てながら終始無言のふたりをかろうじてつないでくれている。

満開をすぎた花びらが、彼と私のあいだにつぎつぎと舞い落ちる。
ふたりでおなか抱えて笑ったのって、いつだっけ。
そんなことをふと考える。

足もとには一面の花びら。天気予報では明日は春の嵐が吹き荒れるとのこと。この桜色の絨毯もきっと吹き飛んでしまうだろう。桜もぜんぶ散ってしまって、すぐにこの川べりのこともみんな忘れてしまうのだろう。
何もなかったかのように。

あっという間に散っちゃうね。
私は心の中でつぶやいた。

「今晩、どっかで飯でも食うか」
彼の手元でカサカサと音を立てていたスーパーの袋が止まった。
ぼうっと歩いていたから、突然立ち止まった彼の背中にぶつかりそうになる。

「お惣菜買っちゃったじゃん」
「明日でいいよ」
彼はそう言うと、すっと私の手を取って、また歩き出した。私の数センチ前をリードして。

昨日の夜、私たちは喧嘩をした。
喧嘩といっても日常茶飯事、とるに足りない、夫婦喧嘩は犬も食わない、そんないつもの小さな言い争いだった。

気まずくしていたのは私のほうだった。
彼の手はとてもあたたかかった。
しっかりとした意思をもっていた。
彼のあたたかい心が、しっかりと私の手に、私の中に伝わってくる。

「きれいだね」
と彼は見上げた。

満開を過ぎた桜の花びらがつぎつぎと彼と私に舞い落ちる。
「あっという間に散っちゃうね」
と私が言うと、
「来年また見に来ればいいよ」
と言って、横顔のまま微笑んだ。

そう。
消えてなくなっちゃうんじゃない。
日常にかまけて、私が忘れてしまうだけなんだ。
あしたもあさっても、私が忘れなければいい。ただそれだけなのに。

この人の優しさも照れくささも強さも弱さもぜんぶ、大好きなんだ。
この大きな手から伝わってくる、この人のぜんぶが好きだったんだ。
なんでそんな大切なことを忘れてしまうんだろう。
いつだって、こうして私の横で、微笑んでくれるのに。

私たちの足もとからはどこまでも桜色の絨毯が伸びていた。
明日には春の嵐でぜんぶ吹き飛んでしまうかもしれない。

私は彼の手をしっかりと握り返した。




この記事のライター

関連する投稿


ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.2

新生活。追い風にするも向かい風にするも春の嵐次第!?…そんな、小さな小さなものがたり。


ますだ美砂の優しい時間~short short story~ vol.3

箱を開ければ「お好きなカードを一枚どうぞ。」手にしたカードで人生が変わる?!…そんな、小さな小さなものがたり。


ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.4

ふと思い出した出来事があなたをそっと癒してくれる!?…そんな、小さな小さなものがたり。


ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.5

かわいい妹ができたお兄ちゃん。新しい家族のあり方で踏みだす小さな大人への第一歩とは?!…そんな、小さな小さなものがたり。


東北地方で唯一、現存天守を残す津軽10 万石の城。弘前城のご紹介。

桜がよく似合う白亜の天守に繚乱と咲き誇るしだれ桜は、まさに優美なる名城の春を演出します。 桜の季節は大変込み合いますが、見どころは、春だけではないので、他の季節も訪れてみてください。


最新の投稿


自己肯定感が欠けた人生 から私が抜け出すまで

がんばり続けることが普通だった私。 「大丈夫」と笑っていても、心はいつも誰かの評価を探していた。 そんな私を救ったのは、“自信をつける”ことではなく、“自分を肯定する”という生き方でした。 もし今、あなたが少しでも生きづらさを感じているなら、この物語はきっとあなたの力になるはずです。


畑からお皿へ。移ろいを生きる夫婦農家。うつろひファームの物語

無農薬で育てた野菜を、自分たちの手で料理やお菓子に仕立ててお客さまへ届ける。季節の変化をそのまま受け止め、形を決めすぎず「今できること」を大切にするおふたり。 畑とカフェがつながる唯一無二の生き方から、食の豊かさ、暮らしのあたたかさを感じてください。


「できる私」でも「好きな私」じゃなかった。気づきの瞬間

自信では得られない「自分自身」を受け入れること。肩の力を抜いて、楽しくイキイキと過ごしてみよう


映え写真にチャレンジ、バングラデシュ 3つの世界遺産 巡り

バングラデシュの3つの世界遺産。「シュンドルボン」は世界最大級のマングローブ林で、ベンガルトラなどが生息する自然遺産。文化遺産としては、8世紀の仏教僧院の巨大な寺院遺跡群である「パハルプールの仏教寺院遺跡群」と、15世紀にイスラムの都市として栄えた「バゲルハットのモスク都市」があります。映え写真で一生の思い出残そう!


あなただけのトリセツを見つけよう! PPF診断で「自分らしさ」を

「仕事で成果は出しているけれど、何だか満たされない」「人付き合いに疲れてしまう」そんなモヤモヤを抱えていませんか? 自分らしい生き方を見失いがちな現代のビジネスパーソンに、今注目されているのが「パーソナルプロファイリング(PPF)」です。一般社団法人パーソナルプロファイリング協会 代表理事 今村園子


無料のLINE自動化ツール
『プロラインフリー』
公式LINE自動化ツール。通常月額2万円以上する機能が全て無料で使えます。

ウィークリーランキング


>>総合人気ランキング

最近話題のキーワード

カラーズスタイルで話題のキーワード


AGE テロメア 食べて健康