50歳を過ぎると、人はなぜか周囲から「歩け」と言われ始める件

50歳を過ぎると、人はなぜか周囲から「歩け」と言われ始める件

散歩って、なんで体にいいの? 近所のおばちゃんに聞いたら、想像の斜め上だった件。言われるがまま歩いていた男が、ついに「理由」を知った。


50歳を過ぎると、人はなぜか周囲から「歩け」と言われ始める。
医者に「歩いてください」と言われ、妻に「歩いてきたら?」と言われ、テレビでは白衣の先生が「ウォーキングは万能です」と微笑んでいる。
私も言われるがまま、毎朝30分歩いている。もう半年になる。

しかし、ある朝ふと気づいてしまった。
「……俺、なんで歩くと健康にいいのか、まったく知らないな」
考えてみれば不思議である。歩くだけだ。走ってもいない。重いものも持っていない。
ただ、近所の田園風景をてくてく移動しているだけ。これで健康になるなら、毎日通勤していた40代の俺はもっと健康だったはずではないのか。

近所のおばちゃんとの出会い

近所のおばちゃんとの出会い

近所のおばちゃんとの出会い

この田舎に越してから、田園風景を見ながら歩くのだが、いろいろな散歩人とすれ違う。
顔も憶えてくると挨拶も、ちょっとした小話も始まる。
井野畑会議ならぬ「Walk & Talk」に陥ると、どちらかがコースを変える傾向があるようだ。

今日は、まったく違う要因「仕事が進まず」で、モヤモヤしながら歩いていたある午前、いつもの田んぼ道で近所の鈴木さん(72歳・仮名)に会った。
毎朝犬の散歩をしていて、今日は、少し遅い時間のようだ。
歩くことにかけては私の大先輩である。

「鈴木さん、散歩ってなんで体にいいんですかね?」
軽い世間話のつもりだった。しかし鈴木さんは犬のリードを握ったまま、ニヤリと笑ってこう言った。

「あんた、知らないの? 歩くとね、血管が若返るのよ」

は?

「それからね、骨が強くなるの。歩くたびにかかとにトントン刺激が入るでしょ、あれで骨が『おっ、まだ働かなきゃ』って思うんですって」

骨が、思う……?

「あとね、これが一番びっくりよ。歩くと頭が良くなるの。認知症になりにくいんですって。それから気分が落ち込みにくくなる。歩くとね、幸せホルモンが出るのよ、幸せホルモン」

幸せホルモン。

完全に怪しい。怪しすぎる。血管が若返り、骨が意思を持ち、頭が良くなり、幸せホルモンが噴き出す。そんな夢のような話があるか。それが本当なら、製薬会社は全社で散歩しているはずである。

「ほんとですか、それ」

「ほんとよ。テレビで言ってたもの」

出た。「テレビで言ってた」。日本の井戸端会議における最強のエビデンスである。

しかし私は50歳を過ぎた大人だ。ここで鵜呑みにせず、家に帰ってちゃんと調べることにした。

調べた結果:おばちゃん、ほぼ正解だった

調べた結果:おばちゃん、ほぼ正解だった

調べた結果:おばちゃん、ほぼ正解だった

驚いた。鈴木さんの話、言い方はファンシーだが、中身はおおむね科学的に正しかったのである。順に見ていこう。

その1「血管が若返る」→ ほぼ本当

ウォーキングのような有酸素運動を続けると、血圧の低下、血糖値の改善、悪玉コレステロールの減少といった効果があることが、多くの研究で確認されている。歩くと全身の血流が良くなり、血管の内側の細胞(血管内皮)の働きが改善することも知られている。「若返る」は言い過ぎでも、「血管の状態が良くなる」は本当だ。高血圧・糖尿病・動脈硬化といった生活習慣病の予防に、歩行習慣が有効であることは、世界中の公的機関(WHOや厚生労働省など)が認めるところである。

その2「骨が強くなる」→ 本当

これも本当。骨は、かかとからの着地の衝撃のような適度な負荷がかかることで、骨をつくる細胞が活性化する性質を持っている。「骨が『まだ働かなきゃ』と思う」という鈴木さんの表現は、擬人化としてはかなり的確だったのだ。特に閉経後の女性は骨粗しょう症のリスクが上がるため、歩く習慣は骨密度の維持に役立つとされている。おばちゃん、恐るべし。

その3「頭が良くなる・認知症になりにくい」→ 方向性は本当

「頭が良くなる」は盛りすぎだが、習慣的なウォーキングが認知症のリスク低下と関連することは、複数の大規模研究で報告されている。歩くと脳の血流が増え、記憶を司る海馬の働きにも良い影響があると考えられている。2022年に発表された約7万8千人を対象とした研究では、1日およそ9,800歩で認知症リスクが約半分になり、それより少ない歩数でも一定の効果が見られたと報告されている。

その4「幸せホルモンが出る」→ これも、まあ本当

リズミカルな運動である歩行は、セロトニン(精神の安定に関わる神経伝達物質)の分泌を促すとされる。さらに日光を浴びながら歩けば、セロトニンの材料づくりにも、体内時計のリセットにも効く。実際、運動習慣がうつ症状のリスク低下と関連することは多くの研究で示されており、「散歩したら気分がスッキリした」は気のせいではなく、生理学的な裏付けのある現象なのだ。

つまり鈴木さんは、犬のリードを握りながら、最新の予防医学をほぼ正確に語っていたことになる。テレビ、ちゃんと役に立っていた。

では、どれくらい歩けばいいのか

では、どれくらい歩けばいいのか

では、どれくらい歩けばいいのか

ここで気になるのが量である。「健康のためなら1日3万歩!」と意気込む人がいるが、実はそこまで要らない。

参考になるのが、群馬県中之条町の高齢者を対象に長年続けられている有名な調査(いわゆる中之条研究)だ。この研究では、

「1日8,000歩、そのうち20分の早歩き」

あたりで、高血圧・糖尿病・脂質異常症など多くの病気の予防効果が期待できるという目安が示されている。しかも、歩数と健康効果の関係は「歩けば歩くほど無限に得をする」わけではなく、ある程度のところで頭打ちになる。海外の研究でも、死亡リスクの低下は1日7,000〜8,000歩前後でかなりの効果が得られると報告されている。

さらに朗報がある。歩数が少なくても、「やらないよりは、ちょっとやるほうが圧倒的にマシ」であることも分かっている。1日4,000歩程度でも、ほとんど歩かない人に比べれば死亡リスクは明確に下がる。

つまり、3万歩は要らない。完璧も要らない。「いつもよりちょっと多く、ちょっと速く」で十分なのだ。

散歩が体にいい理由(エビデンス版)

散歩が体にいい理由(エビデンス版)

散歩が体にいい理由(エビデンス版)

1. 血管と代謝に効く:血圧・血糖・コレステロールの改善。生活習慣病の予防(WHO・厚生労働省も推奨)
2. 骨に効く:着地の刺激が骨をつくる細胞を活性化。骨粗しょう症予防に
3. 脳に効く:脳血流が増え、認知症リスクの低下と関連(歩数が多いほどリスク低下という大規模研究あり)
4. 心に効く:セロトニンの分泌を促し、うつ症状のリスク低下と関連
5. 目安は1日8,000歩+早歩き20分(中之条研究)。少なくても、やらないよりずっといい

おわりに

おわりに

おわりに

翌朝、公園で鈴木さんに会ったので報告した。

「鈴木さん、あの話、調べたら全部ほんとでした」

鈴木さんは犬のリードを握ったまま、勝ち誇った顔でこう言った。

「でしょう? あたし、毎日テレビ見てるもの」

エビデンスレベルの最上位に「近所のおばちゃん」を加えるべきか、私は今、真剣に悩んでいる。

とりあえず今日も、歩く。理由を知った散歩は、昨日までよりほんの少しだけ、足取りが軽い。




この記事のライター

ボクの名前は「うけうり君」TVや先生から学んだ知識を、みんなに教えてあげるのだウリ♪

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