卵屋さんシリーズ3 卵と二酸化炭素の不思議な関係

卵屋さんシリーズ3 卵と二酸化炭素の不思議な関係

冷蔵庫に必ず入っているといっても過言ではなく、日々の食卓に欠かせない「卵」。では、そんな身近な卵のことをあなたはどれくらい知っていますか? このシリーズでは、卵屋さんの目線で、色々な角度から卵を紹介していきます。せっかくなので、あまり知られてはいないであろう話題を集めてみました。 新しい情報満載で、卵への興味でいっぱいになるかも・・・。 シリーズの3回目は卵の不思議について。特に、二酸化炭素の影響にスポットを当てました。実は卵は科学の実験をするにもうってつけの食材なんです。


数多く存在する卵焼きのレシピの中には、料理酒を入れるものがあります。友人曰く、以前、このレシピにトライしようとした際、料理酒が切れていたので、飲みかけの赤ワインで代用してみたそうです。すると、何と・・・出来上がったのは青っぽい色をした不思議な卵焼きでした。赤ワインが料理酒の代わりにはならないだろう・・・という突っ込みはさておき、この不思議な現象の理由を調べてみましょう。
秘密は、赤ワインに含まれるアントシアニンという色素にありました。健康にいいとかで、耳にする機会も多い名前です。ブルーベリーや赤紫蘇など含まれる食品がぱっと頭に思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。そんな有名な成分ですが、ほかにも面白い特性を持っています。それは、周りのpHによって色が変化すること。酸性だとピンク色、アルカリ性だと青緑色という何とも楽しい特性です。子どものころに紫キャベツの実験をやったことはありませんか。紫キャベツの煮汁に中華麺を入れると青くなり、酢をかけるとピンクになるというあれです。これも同じ特性によるものです。今回の卵焼きの話に戻りましょう。青っぽくなったということは、卵はアルカリ性ということですね。実はこれ、ブルーベリーケーキを焼いたときにも見られる現象です。ブルーベリーケーキが何となく色がくすんでいるように見えるのはこのためです。ケーキの場合、卵だけではなく、膨らませるためのベーキングパウダーもアルカリ性なので、そちらにも反応します。
卵に含まれる成分によってpHが決まるのももちろんなのですが、ほかの要因もあります。
卵は産卵直後は、pH7.5程度、時間の経過とともにpH9ほどになるアルカリ性の食品です。
pHが変わる食品というのも面白いですよね。これは卵の中に含まれる二酸化炭素濃度が関係しています。産卵直後の卵には二酸化炭素がいっぱいに充満しています。それが時間の経過に伴ってだんだんと二酸化炭素が抜けていき、pHが上がります。アルカリ性が強くなることで細菌の繁殖を抑えるという効果もあるのだとか。有精卵は21日間かけて温められ、孵化します。その間、無事でいられるようにという仕組みのようです。
卵の中から二酸化炭素が抜けることは、私たちにも恩恵があります。それはゆで卵の殻が剥きやすくなること。地味ですけど、これってけっこうよくないですか。産卵直後の卵は二酸化炭素がいっぱい充満しており、茹でると二酸化炭素が膨張し、中から白身を殻に押し付けている状態になっています。白身が殻にぴったりとくっついているので、殻が剥けにくいのは当然ですよね。日数が経ち、二酸化炭素が少なくなると白身と殻の間に隙間ができ、この時期の卵をゆで卵にすると簡単に殻が剥けるのです。ちなみに、卵のとがってない側には“気室”と呼ばれる空間がありますが、この気室は日数が経つごとに大きくなっていきます。卵からは二酸化炭素以外にも水分も抜けていき、その影響で気室は広がります。産卵直後の新鮮な卵をゆで卵にしたいときは、この気室にヒビを入れたり小さな穴をあけておくと、茹でている最中に二酸化炭素が抜け、殻が剥けやすくなります。最近では穴をあけるための道具も発売されており、話題になっているようです。
二酸化炭素は日が経つにつれてだんだんと抜けていきますが、保管する温度と気圧にも大きく影響されます。特に日常では温度の影響が大きいので冷蔵庫に入れておきましょう。
また、新鮮な卵を割ってみると白身が少し濁っているように見えますが、この濁っているのが二酸化炭素です。反対に、少し日数が経った卵は二酸化炭素が抜けているので、白身が透明に透き通って見えます。
二酸化炭素が抜けるという特徴によって割る前の卵でもその卵が新鮮かどうかを見極めることができます。それは生卵を水に入れるというシンプルな方法です。昔ながらの方法なので、お婆ちゃんから教えてもらったことがある人もいるかもしれませんね。新鮮な卵は沈みますが、二酸化炭素が抜けて隙間ができた卵は水に浮くという寸法です。
と、一般的なお話をしてきましたが、厳密にいうと二酸化炭素の抜けやすさは、卵の殻の強度によっても違います。その強度は鶏の年齢によって変化があるので、色々な卵を集めてパックしているものは、それぞれの卵によってゆで卵の殻の剥きやすさは変わってくるので注意が必要です。
最後に、買った卵をすぐにゆで卵にしたい場合の卵の選び方をご紹介しましょう。最近は産卵日が表示された卵も見かけるようになりましたが、まだメジャーではないと思います。買うときは賞味期限をチェックしてください。もちろん、賞味期限まで日が短いものが新鮮ではない卵ですが、実は、卵の賞味期限の決め方には決まりが2通りあります。1つは「産卵日から21日」。2つ目は「パック日から14日」です。ただし産卵日からの表示は、最近の安全志向の高まりから14日が採用されることも多くなっています。パック日からの表示は、色々な卵屋さんから集めてきた卵を一緒にパックしている会社の商品で使われています。小規模な卵屋さんの多くは、この方法で卵を出荷しています。
最初の友人曰く、赤ワイン入りの卵焼きの味は・・・悪くはないらしいです。たまには変わった卵焼きを作って周りを驚かせるのもいいかもしれませんね。


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