農業と大地の芸術!「田んぼアート」のストーリー

農業と大地の芸術!「田んぼアート」のストーリー

広大な大地に描かれた絵画。それを聞いてまず思い浮かぶのは「ナスカの地上絵」でしょうか。 でも現代では、そこに「田んぼアート」という新ジャンルが加わっています! 今回は「田んぼアート」の魅力を紹介しつつ、それを描く技術や誕生のきっかけに迫ります。


「田んぼアート」とは?

「田んぼアート」、ご存知ですか?
その名の通り、「田んぼ」という広大なキャンパスに描く芸術作品です。

見頃の時期はまさに今、夏〜秋にかけてですね。
今では日本全国で100箇所以上もの場所で行われていて、各会場でたくさんの見物客を集めています。

まずはどのようなものか見てみましょう。

こちらの画像は、インスタグラムで「#田んぼアート」と検索したときに表示された一部です。

全国各地で描かれるようになった壮大なスケールのアートですが、年を追うごとに会場を訪れる人の数が増え続け、海外からわざわざ撮影しにくるファンも出てきました。
絵のクオリティ(細かさ、色の多さ、芸術性など)もぐんぐん向上していっています。

埼玉県行田市では、2015年に「世界最大の面積の田んぼアート」がギネス記録に認定されました。

実際に現地で見ると、風で稲がそよぎ巨大な絵がまるで生きているかのよう!
これは写真では伝わらない魅力ですね〜。

(撮影:yari hotaka)

こちらの作品は、パノラマのスケール感がインパクト大!

そんな全国的、いや、今や世界的な田んぼアートですが、元祖は青森県のとある小さな村。
その誕生ストーリーは記事の後半で!

「田んぼアート」の色はどうなってるの?

さて、ではいったい田んぼに色がついているとはどういうことでしょう?
まさかスプレーなどでペイントするわけにはいきませんよね(笑)

答えは、「稲穂や葉の色」が異なる稲を複数使い分けること。
最近は5〜10種類ほど使っている作品が多いようです。

(撮影:Andrew Green)

ところで、赤米とか黒米とか色のついたお米があることはよく知られていますが、稲穂や葉の色が種類によって違うなんて、知らなかった人も多いのでは?
実際、コシヒカリもササニシキも最近登場している新品種も、だいたいどれも葉の色は緑で、穂の色は黄金色です。

でもほら、近くで見てみると稲自体がそれぞれ違う色なのがはっきり分かりますね!

(撮影;yari hotaka)

それらの色のついた稲を開発したのは、「青森県産業技術センター」。

もともと黄色い稲と紫の稲があり、紫の方は研究用の田んぼで違う品種の苗を植えるとき境の目印として使用していたものです。
(黄色は特に用途はなく、ただの「資料」ということで保管されていました。)

初期の田んぼアート(当時は「稲文字」と呼ばれていました)はその2色と、普通の緑の稲で合計3色。

田んぼアートをきっかけに、独自で新しい品種を生み出し(※遺伝子組み換えではありません。交配と選別による方法です)、白、橙色、赤褐色などレパートリーが増えていきました。

「田んぼアート」誕生からブレイクまで

青森県南津軽郡田舎館村。
「いなかだて」と読む人口8000人ほどの小さな小さな村は、稲の花を村のシンボルとしている米どころです。

2000年以上もの歴史を持つ「北方の稲作文化発祥の地」であり、「反収(面積あたりの収穫量)日本一」を何度も獲得するほど肥沃な土地なんです!
しかし、減反政策によりその唯一のアピールポイントも誇れず、村の子どもたちは都会へのコンプレックスを抱えるばかり・・・。

そんな時代背景のの中、このままではいかん、と「村おこし」が企画されます。
この村の強みはやはり稲作しかないと腹をくくり、村役場の職員のわずかな人数で始めたのが1993年の「稲作体験ツアー」でした。

そのときに「ただ苗を受けて刈り取るだけでは面白くない」と考え、色の違う稲を使って文字を書く試みがなされました。
それがこちらの図柄。津軽のシンボル・岩木山と「稲文字」です。

これが思いのほか大好評で、2001年まで継続して描かれました。

そして2002年、転機が訪れます。
NHK番組『千人の力』に応募したことで、さらに広大な面積で、巨大な絵柄に挑戦することになったのです。

そのデザインがこちら!
(ちなみにその時に採用された図案を描いた小学生は、のちに村役場職員となっています。)

2002年のチャレンジは大成功!
ルー大柴さんがレポートに来た番組は盛り上がり、「田んぼアート」が全国デビューした瞬間でした。

翌年、今度は有名芸術作品に挑みます。
パソコンソフトで作図し、測量技術によって計測した絵のポイントごとに目印を立てながら田んぼに下絵を描く方法によって、精密な絵柄を描くことが可能となりました。

さあ、広大な田んぼに名画が堂々と再現されました!

・・・しかし・・あれ?・・・マツコ・デラックスさん?(笑)

真上からの航空写真なら、たしかにモナリザなんです。でも、多くの人が見物できる地点(村役場の展望デッキ)だと、近くは大きく、遠くは小さく見えてしまうのでこんなことに。

2003年のモナリザの失敗をふまえて、次の年は遠近法を考慮して作図がなされました。
地元の美術教師の手により、画像編集ソフトを使って遠近感を調整し歪みを加えるという手法です。

青森県出身の版画家、棟方志功の作品ということもあり、年間見学者数が3万人に達しました!

2005年の写楽と歌麿の浮世絵では、繊細な表情のために難易度が高く、測量も下絵も前年の倍の手間をかけて完成! テレビで大きく報道され、来場者13万人の大ブレイク!

色の数を増やした2006年の風神雷神で、とうとう20万人を突破しました!

「田んぼアート」は極みへ・・

(撮影:掬茶)

モナリザの失敗を乗り越えて大きく進化した田舎館の田んぼアートは世界的に注目され、毎年数十万人が訪れるまでに成長しました。
他の地域での田んぼアートの開催にもノウハウや稲の提供など惜しみなく協力しています。

しかし、田んぼアートを見学できる役場庁舎は人で溢れかえり、2時間待ちの行列に疲れ果てる人も続出・・。

そこで2012年、第2会場を新設することに。
これまでの会場である村役場から3kmにある道の駅「弥生の里」から眺められる幅広い田んぼに、前年に襲われた東日本大震災の「順風復興」への願いを込めた七福神を描きました。

この次の年には、第2会場のすぐ近くに「田んぼアート駅」を開業し、利便性も高まります。

2014年の「富士山と羽衣伝説」。天皇皇后両陛下も観覧した作品です。
このあたりになってくると、ものすごいクオリティに初めて見る人は驚嘆ですね!

最後に、「遠近感を調整して歪みを加えた手法」の、実際の作図をお見せしますね。
「富士山と羽衣伝説」で美しい天女が舞い降りていますが、真上から見るとこんなふうに大きくぐんにゃりとなっているんですね〜。

これは外国の方々が「さすが日本の技術力!」と賞賛してくれるのも頷けます。

現在では、サザエさんや手塚治虫作品とのタイアップ、スターウォーズやゴジラなど公開中の映画や、NHK大河ドラマのPRなど、様々な企業活動とのコラボレーションにも発展しています。

画像認証に関する技術的な試みもありますし、これからもいろいろ新しい取り組みがなされそう。
小さな村から広がった奇跡のような「田んぼアート」のストーリー、まだまだ続きがありそうで目が離せませんね!

この記事のライター

夫婦でスローライフを徐々に実践中。インスタグラムではカフェや神社仏閣巡りの他に旅行や農関連を投稿してます。

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