卵屋さんシリーズ5 養鶏の大敵 

卵屋さんシリーズ5 養鶏の大敵 

冷蔵庫に必ず入っているといっても過言ではなく、日々の食卓に欠かせない「卵」。では、そんな身近な卵のことをあなたはどれくらい知っていますか? このシリーズでは、卵屋さんの目線で、色々な角度から卵を紹介していきます。せっかくなので、あまり知られてはいないであろう話題を集めてみました。 新しい情報満載で、卵への興味でいっぱいになるかも・・・。 シリーズの5回目は、養鶏の一番の困りごとについて。目に見えない敵との戦いのご紹介です。


今日はAIの話をします。AIといえば、多くの人が思い浮かべるのが人工知能(Artificial intelligence)でしょう。ですが、ここでは鳥インフルエンザ(Avian Influenza)についてです。AIではわからなくても、鳥インフルエンザならきっと聞いたことがありますよね。冬になると毎年野鳥で発生が確認されたとニュースになっていますし、ここ最近は、2~3年に1回は養鶏場に大きな被害が出て、問題になっています。卵屋さんにしろ、鶏肉屋さんにしろ、鶏を飼っている人たちにとっては、鳥インフルエンザは最大の恐怖です。
まずは、鳥インフルエンザとは何かから始めましょうか。読んで字のごとく、鳥類に感染するインフルエンザです。感染力の強さからタイプが分かれますが、一般的には高病原性という感染力の強いものが問題となります。鳥類間での感染力は抜群で、自然界でも養鶏場でも、感染した場合はバタバタと鳥が死んでしまいます。その感染力の高さから、もし養鶏場で発生した場合、法律により色々なことが規定されています。また、鳥と人間だと感染するインフルエンザウィルスの形が違うので、よほどのことがない限り、鳥インフルエンザは人間には感染しません。余談ですが、豚は鳥と人間の両方と共通する感染の形を持つので、鳥→豚→人間だと感染するリスクは高まります。
では、養鶏場で鳥インフルエンザが発生した場合の規定について見ていきましょう。まず、養鶏場内でたくさんの死んだ鶏を発見した場合、都道府県の機関に届け出が必要です。そうすると、職員の人が来て検体を採取し、鳥インフルエンザの検査を行います。届け出を行うレベルで鶏の死亡が確認されている場合、残念ながらほぼ鳥インフルエンザの発生は確定です。検査の結果、高病原性の鳥インフルエンザの発生が確認されると、搬出規制がかかります。発生した養鶏場はもちろんですが、そこから半径3 Kmの範囲で鶏、卵、鶏糞等の移動の禁止、半径10 Kmの範囲で鶏等を圏外への搬出が禁止となります。せっかくの卵を消費者のみなさんに届けることができません。また、鳥インフルエンザが発生した農場は、すべての鶏を殺処分し、厳重な消毒が終わるまで、新たな鶏を飼うことはできません。この殺処分が大仕事です。これは養鶏場の職員が行うのではなく、県や市の職員の人、自衛隊の人の手によって行われます。公務員の人たちは農業関係の部署だけに限らず、多くの部署から駆り出されます。常日頃から防災関係の訓練と一緒に、鳥インフルエンザが発生した場合のシュミレーションも行われているそうです。殺処分した鶏は焼却し、埋土します。
鳥インフルエンザが発生した農場の鶏をすべて殺処分するのは、他の養鶏場への感染を防ぐためと、人間への感染を防ぐためです。さきほど、「よほどのことがない限り、鳥インフルエンザは人間には感染しません。」と書きましたが、そのよほどのことを警戒してのことです。インフルエンザウィルスは、変異といって形の変わりやすい特徴があります。だから、「もしかしたら人に感染するかもしれない」「人に感染し、それが他の人にも感染する形に変わったら、パンデミックが起こるかもしれない」との理由で鳥インフルエンザの拡大を防ぐため、発生した養鶏場の鶏をすべて殺処分することで終息を図るのです。
養鶏場での鳥インフルエンザの発生を防ぐには、今のところ予防しかありません。病気の発生には1.感染源(ウィルス)があること 2.感染するもの(鶏)があること 3.1と2が出会うことの3つが必要です。鳥インフルエンザウィルスを世界から滅ぼすことはできませんし、養鶏場で鶏がいないと話にならないので、3の出会いを阻止するということです。ウィルスは一人では勝手にやってくることはできません。人、物、野生動物なんかにくっついて一緒に養鶏場に入ってきます。だから、養鶏場で働く人は鳥インフルエンザ発生国から帰国した後、数週間自宅待機になりますし、特にシーズンが近づくと養鶏場の人たちはとても気を使っています。あるところでは、「鳥インフルエンザが発生している国のお土産を受け取らない」というところまで徹底しているというのも聞いたことがあります。鶏も人間のようにワクチンを打てばいいじゃないという声もあると思います。実は、鳥インフルエンザのワクチンは開発されていて、世界でもいくつかの国では使用されています。ただし、日本では使用が認められていません。それは、ワクチンを使用してしまうと鳥インフルエンザの汚染国となり、政府としては色々と困ったことが起こるようです。例えば、清浄国(鳥インフルエンザが発生していない国)に鶏や卵を輸出できなくなります。また渡り鳥の多く飛来する日本では、防疫のために、放し飼いではなくケージ飼いを選択するところが多いです。近年は欧米の影響で、動物福祉という話も聞くようになってきており、ケージ飼いはあまりイメージが良くないようですが、鶏を守るための最善の方法でもあるのです。
食品としての安全性を確保しながら、鶏の幸福を追求し、そのうえで安価な卵を国内で持続的に生産供給する。これをすべて満たすシステムが求められているのです。


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