ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.4

ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.4

ふと思い出した出来事があなたをそっと癒してくれる!?…そんな、小さな小さなものがたり。


夜道

整然と立ち並ぶ木々のすき間からは大きな三日月が顔をのぞかせていた。

会社から帰る途中、商店街から住宅街へ抜ける、ほんの数十メートル。
大きな木がひっそりと立ち並ぶこの道は、確かな静けさが流れていて、
仕事の疲れも、嫌な思いも、ほんの一瞬だけど忘れられた。

無心になれる。
そんな言葉が似合うかもしれない。ちょっと大げさかもしれないけれど。

一人暮らしにもやっと慣れてきた感じ。

私は緑が濃くなった木々の青臭さを静かに吸いんだ。
その青臭さは子供のころに歩いた田舎道と同じにおいがした。

はじめてお母さんに連絡もしないで真っ暗になるまで遊んだ帰り道。
はしゃいでいたときはまったく気がつかなかったのに、
お友達と別れていざひとりになったとたん、
まわりはすっかり闇の中。
ひんやりと風は冷たいはずなのに、手はうっすらと汗ばんで。

人っ子ひとりいない。
風に揺れる木々のざわめきがうめき声に聞こえて、
その声をかき消そうと私は必死に歌を口ずさむ。

わたしは平気。へっちゃらなんだから。

けれど、すぐに声は震えて小声になって、
歌い終わればよけい静けさとうめき声が大きくなって押し寄せる。
歌う勇気さえもあっという間に呑みこんでゆく。

お母さんに怒られることがこわいのか、真っ暗なことがこわいのか、
私はもうなにがなんだかわからなくなる。

ふと気づけば、後ろからは大きな月。
私が歩いたり走ったりすると
大きな月も歩いたり走ったり。
どうにも月から逃げられない。

そのうち足がもつれてころんで
家の灯りが見えたとたん
大粒の涙がぽろぽろぽろぽろ。
一生懸命がまんしてたのに。

「こんな時間まで何してたの!心配したのよ!」

お母さんが帰ってきた私の顔を見るなり叫んで、ぎゅっと抱きしめた。
その腕の力は強くてあったかくて、
私はますます涙があふれて、ごめんなさいもなんにも言えなかった。

ただいま

鍵を開ければ真っ暗で、
そして少し、泣きたくなる。
あのときほどじゃないけれど。

私は靴を脱いだ開放感でふうっと大きく息を吐く。
電気をつければ一瞬にして今の私。

あのときがどのときなのか忘れてしまうくらいに。

関連する投稿


ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.5

ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.5

かわいい妹ができたお兄ちゃん。新しい家族のあり方で踏みだす小さな大人への第一歩とは?!…そんな、小さな小さなものがたり。


ますだ美砂の優しい時間~short short story~ vol.3

ますだ美砂の優しい時間~short short story~ vol.3

箱を開ければ「お好きなカードを一枚どうぞ。」手にしたカードで人生が変わる?!…そんな、小さな小さなものがたり。


ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.2

ますだ美砂の優しい時間~short short story~vol.2

新生活。追い風にするも向かい風にするも春の嵐次第!?…そんな、小さな小さなものがたり。


ますだ美砂の優しい時間~short shrot story~ vol.1

ますだ美砂の優しい時間~short shrot story~ vol.1

日常がハッピーに変わる瞬間。きっかけ作りは桜の魔法!? …そんな、小さな小さなものがたり。


最新の投稿


新潟の地、農家に経営手法を取り入れた「すずまさ農園」スタートアップ!

新潟の地、農家に経営手法を取り入れた「すずまさ農園」スタートアップ!

新潟からレンタカーで、右側の日本海越しの佐渡島を眺めながら少し走ると「すずまさ農園」があります。日本海から、季節の楽しみと健康をお届けしようと、新規就農した「もとITエンジニア」お二人の物語が始まりました。


いっちゃんの東京まち歩きWalking お出かけ「江ノ島」編

いっちゃんの東京まち歩きWalking お出かけ「江ノ島」編

オリンピック噴水公園⇒弁財天仲見世通り⇒江島神社⇒江島神社辺津宮⇒江島神社中津宮⇒江島展望灯台前⇒山二つ⇒江島神社奥津宮⇒⇒岩屋洞窟前(折返し地点)⇒恋人の丘「龍恋の鐘」⇒児玉神社⇒さざえ島 このコースをインストラクターと一緒に歩くことができます。 詳しくは http://walkers-hi.jp/ を御覧ください


~フォトジェニックな○○~「桜」

~フォトジェニックな○○~「桜」

ソメイヨシノの淡い色は他にはたとえられない「桜色」ですね。 今年の開花ももうすぐ!満開になるのが楽しみです!


奥田政行シェフの料理哲学から「本物の”ご馳走”」が見えてくる

奥田政行シェフの料理哲学から「本物の”ご馳走”」が見えてくる

日々何気なく使っている「ごちそうさま」というセリフ。この言葉に込められた本当の意味をまさに体現している料理人をご紹介します♪


~フォトジェニックな○○~「桃の節句」

~フォトジェニックな○○~「桃の節句」

唐突ですが、ひなあられって淡くて優しい色ですよね。美味しいし(^^)